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2018年10月09日
カテゴリー:院長より
見果てぬ夢の地平を透視するものへ-164
しかし、F・Basagliaの実践はついには挫折的に終末を余儀なくされたのであり、彼は綿密な現状分析をふまえて、現在ではこのような政治的行為は現実の力となるまでには熟していないのであって、現在自分達に出来ることは常に疎外の問題に対してするどい認識を持ち続けることしかないと悲観的に結論しているのである。
Maxwell Jonesの実践と理論については後で詳しく述べることにするが、日本に於いても、ここ三年程の間に、精神医療を純粋に政治的な問題として把握する運動は次々と、さまざまな壁に突きあたった。壁に突きあたるたびに、<精神病者>あるいは<分裂病者>をあらゆる課題の原点に据えなければならなかった訳だが、その度に確実に問題は深く<病む人間>の問題の側に足を踏み入れてきたのであった。精神医療を政治的運動としてとらえる考え方も、現在ではさらに方法論を拡大していかねばならなくなっていることは事実である。まさに、「精神分裂病とは何か」という問題をそのための中核に置かなくては、一歩も政治的な運動を展開できないのである。しかし、このことはこうした運動が激しく模索してきた方法の豊かな果実の一つであると私は考えている。
(Ⅳ私的表現考/世界の病むこと つづく…)